売主偏重の不動産市場

今回のお話は不動産市場にも明るくて建物の構造や性能にも精通している、完全に自己責任で物件選びができる方にはあまり関係のない話題になりますが、ほとんどの方はプロの意見がないと怖くて不動産購入できないので、ぜひ参考にしてください。
今回のテーマは「物件探しより先に頼れる事業者選び」です。

■一般の方にはあまり馴染みのない仲介という形態

一部売主が宅建業者という例もありますが、ほとんどの場合、不動産購入は売主である個人と不動産会社を通じて取引を行います。
※個人である売主と直接取引する形態もありますがイレギュラーケースなのでここでは割愛します。

この時の不動産会社を「仲介」と呼びます。
この仲介という取引形態が一般の方にとってあまり馴染みがないので、正しい認識でない方が少なくありません。
一般の方だけでなくプロである事業者も正しい認識でない方がいるくらいです。

例を挙げると、売買を担当している不動産会社の方に「あなたの仕事は何ですか?」と質問した時に、「私の仕事は家を売ることです」という回答をされることが多いのですが、この回答は正しくありません。
不動産仲介会社は仲介が仕事であって、不動産会社が家を売るというのは半分間違っています。

揚げ足を取るような表現で申し訳ないのですが、この認識の違いこそが不動産業界が抱える問題とも言えるので結構重要です。

■不動産仲介の形

売主がいて買主がいてその間に不動産仲介会社がいる、不動産取引の仕組みをこのように理解されている方が多いです。
しかしこの認識は正しくありません。

不動産仲介会社は売主、買主双方に存在するので、売主は売主のための仲介会社を手配し、買主は買主のための仲介会社を手配するというのが本来の形です。
わかりやすいように言い換えると、不動産仲介会社の役割は依頼者の味方であることなので、売主は自分にとって有利に売却を進められるように売るための味方に依頼し、買主は自分にとって有利に購入を進められるように買うための味方に依頼します。

先ほどの説明で半分間違っていると記載したのは、家を売ることが仕事の方がいるのであれば、家を買うことと回答する事業者もいておかしくないはずなのに、そのように回答する事業者があまりいないという問題からです。
(買取再販業者には家を買うことが仕事の仕入れ担当者がいますが、この記事で言う仲介業者とは言えません)

不動産仲介の仕組みはこの後ご説明しますが、まずは売主・買主双方に不動産仲介会社が存在することが本来の形であることと、現在の不動産市場は買主の味方としての不動産仲介会社が少ないという問題を抱えていることをまずは整理しておいてください。

■片手仲介 両手仲介

売主が売却のために仲介会社へ依頼し、買主は購入のために別の仲介会社へ依頼する、こういった取引の形を業界用語で片手仲介と言います。
取引が成立すると売主は売主側の仲介会社へ仲介手数料を支払い、買主は買主側の仲介会社へ仲介手数料を支払う、つまり不動産会社は片側からしか仲介手数料収入が得られないことから片手と呼ばれます。

対して仲介会社が1社しか関与しない場合、つまり売主が売却のために仲介会社へ依頼し、その仲介会社が買主を見つけて取引が成立する形のことを両手仲介と呼びます。
取引が成立すると売主、買主双方から手数料収入が得られるので両手と呼ばれます。

片手であっても両手であっても取引にはある程度の手間がかかるため、不動産会社にとっては両手仲介は「一粒で二度おいしい」取引と言えます。
アメリカでは禁止されている州もあるのですが、日本では両手仲介は合法です。
また、両手仲介にも片手仲介にもメリット・デメリットがあるので、取引形態そのものが悪い訳ではありません。

それでは何が問題なのか?
先ほど記載した不動産会社が家を売ることを仕事としているということに関係します。
不動産業界は売主偏重で、買主の味方があまりいないのが大きな問題と言えます。

■両手仲介のデメリット

皆さんがこれから不動産売買業を始めるとします。
まず初めに何を行うでしょうか。
家を売るということなので、買い手を探すことから始めるでしょうか。

不動産業界では売主さえ見つかれば後は何とでもなるという風習があります。
そのため不動産業者はあの手この手で必死に売主を探します。
売主さえ見つかれば、片手で良いと割り切っている事業者は待っているだけで他の事業者が買主を見つけてくれますし、積極的に活動する事業者は両手を狙って自ら買主探しを行います。
ここまでは問題ありません。

それではそんな売主側の仲介会社が出している広告物件が気に入って皆さんが問い合わせをしたとします。
ひと通り説明を受け、物件を内見し、住宅ローンも問題ない…。
ここで一つ問題が生じます。

売主側の仲介会社が広告している物件の取引を進める場合、買主である皆さんの味方はどこにいるのでしょうか。

本来売主と買主は利益相反関係にあります。
例えば3300万円で売りに出ている物件があって、買主である皆さんが3000万円なら買っても良いと思っている場合、間に立つ仲介会社はどのような行動を取るのでしょうか。
売主へ値引きを打診する?買主へ値引きができないことを説得する?間を取って150万だけ値引きする?いずれにせよ、売主の味方と買主の味方は両立できないことはご理解いただけると思います。

これが価格ではなく、建物の性能などで不利な条件がある場合はどうでしょう。
売主の味方である仲介会社が法律に触れない範囲で巧妙に誤魔化してきた場合、そのことを買主が見抜けないケースが懸念されます。

■売主偏重の不動産業界

両手仲介だけが悪いわけではありません。
家を売ることが仕事と回答する事業者が多いように、買主に対して必死に家を売ってくる事業者が少なくありません。
不動産事業者は取引が成立しないと収益が発生しないので、何としてでも自分を通じて家を買った欲しいのです。
この辺りが小説や漫画、ドラマなどで描かれる「お金のことしか考えていない不動産会社」のイメージの元となる構造です。

皆さまも不動産購入の取っ掛かりとしてポータルサイトで売り物件を探したと思います。
売主が売却を決めることからスタートする取引が主流なので、今の不動産業界はどうしても売主偏重と言わざるを得ません。

買主の立場から見ると、売主、売主側仲介会社、買主側仲介会社が一体となって、買主に家を売りに来ているように思えてしまいます。

不動産業界の人は当たり前と思っているけれどよくよく考えてみるとおかしな例を挙げます。
それは内見調整です。

売却にあたって空き家になっている場合は比較的買主の都合で内見を行うことができるのですが、売主が現在居住中の場合は、売主の都合を確認しないと内見できません。

買主から見ると「売りたいって言ってるのにそっちの都合じゃないと見ることすらできないの?」という感覚はそれほど常識外れではないと思います。
テレビCMではないのですが「じゃあいいです~」って言いたくなりますね。

しかし今の不動産業界では売主にお伺いを立てないと内見できないのは当たり前のこととされます。
便利なWEBサービスがたくさんあるのに、この日のこの時間は内見OKです、と売主がスケジュールを公開するのも一般的ではありません。
※仲介会社が内見スケジュールを調整します。(生産的ではありませんね!)
このように内見一つとっても売主重視の業界であることがわかると思います。

■不動産市場は買い手が強くなっていく

需要と供給のバランスが崩れる状態で、売り手市場、買い手市場と表現されることがあります。(新卒採用のニュースでよく見ます)

先ほどまでの説明では不動産市場は売主が強い、売り手市場と思われがちなのですが、これはあくまで不動産業界の商慣習によるもので、不動産取引が活発なエリアは未だに売主の方が強い場合がありますが、実は買主の方が有利になりつつあります。
需要と供給を考えると今後ますます買主が有利になることは間違いありません。

理由は人口構造です。
日本は極端な少子高齢社会に突入しているので、家を買う人は減っていきます。
反対に高齢者が家を処分するケースが増えてくるので、家を売りたい人は今後ますます増えていきます。

もちろん外国人が日本の不動産を購入する動きもありますし、かつての一生で一回の買い物ではなく何度も売り買いする方も増えてきています。
ただ、多くの高齢者が売りたい家は所謂子育てのための家で、外国人や買い替えのニーズとはマッチしない側面もあり、同じく子育てのための家が欲しい若い世代は減り続けるので、今後家は売りにくくなることは間違いありません。

人口減少問題と同じで、売りに出したらすぐに売れる・価格も維持できるエリアと、一向に売れないエリアとの二極分化はすでに始まっています。
それでも不動産業者が家を売りたがるのは、業界全体の構造変化が時代のニーズに間に合っていないからだと考えます。

実際、少し前は売主を見つけたらひと安心だったのが、今では条件の悪い家だとなかなか売れないので、より良い条件の売り物件を見つけないといけない状態になっています。

今の風潮と真逆の、買主を懸命に探して住宅所有者に「購入希望者がいるので売却しませんか?」と交渉するという買主偏重の市場は言い過ぎですが、少なくとも買主の選択肢はひと昔前に比べてずっと多くなっているので、本来あるべき買主の味方業に専念する事業者が増えてもおかしくないと思います。

■これから家を買う方は、まず家を売りたいだけの事業者か買主の味方かを判断する

本来なら買い手市場のはずなのに、何故だか売主偏重の雰囲気が色濃く残っているのが今の不動産市場です。
ですがひと昔前に比べると買主の選択肢が大幅に増えているのは間違いありません。

このような時代において、住宅購入でまず初めに行うべきなのは、問い合わせをした事業者が買主の味方であるかどうかを判断することです。

この時大切なのは検討する対象は会社ではなく目の前にいる担当者です。
その人が任せられる人であるかを判断します。
※詳細は割愛しますが、仲介会社が担う責任は、売主である事業者が担う責任とは全く異なるもので、仲介会社の質は人に依存する部分が多いからです。

不動産事業者が売りたい物件ばかり勧めてくるのか、自分のことを思って最適な物件を提案してくれるのかを判断します。

私たちは一般的な不動産営業マンに対して、売主・買主いずれか片方の味方のことをエージェントと呼んでいます。
このような書き方をすると、エージェントに頼めば自分にとって最適な物件を見つけてきてくれる、代理人のような存在とイメージされる方が多いと思いますが、実際には買主と一緒に物件探しをするというのが適切な表現と言えます。
もちろん全てお任せいただくことができれば光栄なのですが、冒頭にも記載した通り、仲介という取引形態が一般的ではないので、業者が選んだ物件をそのまま購入することはあまりないと言えますし、鵜呑みにするべきではありません。

ネットの情報だけだと信頼できる担当がついてくれるか判断しにくいです。
テレビドラマで描かれるような一度問い合わせをしたらしつこく営業してくるというような事業者は稀なので、家を買おうと思ったら、まずは気軽にまずは不動産会社へいろいろと相談してみるのが近道と言えます。

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