「ステルス値上げ」の影響で不動産選びは小さな間取り?!

日本の住宅が再び狭くなっているようです。国の最新調査(2023年)では、1住宅当たり延べ面積は約92平方メートルとピーク時の2003年から約3平方メートル狭くなり、30年前の水準に逆戻りしました。建設コストが上がるなか、面積を削って価格上昇を抑える「ステルス値上げ」が常態化しています。「ステルス値上げ」とは敵のレーダーには映らない戦闘機のことで、ステルスのように見つかりにくい値上げのことをステルス値上げといいます。Shrink(縮小)とInflation(インフレ)の合成語であるシュリンクフレーション(Shrinkflation)とも呼ばれます。これは、販売される商品の価格は変わらないまま、その内容量が収縮(シュリンク)していくことを表しています。

■不動産業界にも広がる「ステルス値上げ」?!

一般的にメーカーが原材料の高騰や消費税アップ等により商品の値段を上げたい場合、あからさまに値上げをすると購入者が敬遠して売り上げが落ち込んでしまいます。そこで、価格やパッケージは変えず、容量やサイズを縮小させることで、実質的な値上げを果たせるのです。今回は不動産の事の為、適切な広さの住宅が取得できなければ、若年世代が結婚や出産をためらう原因となりかねません。5年に1回の総務省「住宅・土地統計調査」では、住宅全体は1960年代から拡大傾向が続いた後、2000年代に頭打ちとなり、直近5年は縮小が鮮明になりました。

戸建て、一般的な分譲マンションや賃貸アパートを含む共同住宅も前回(2018年)の調査時より縮みました。特に共同住宅は約50平方メートルと、国が「豊かな住生活」の目安に定める都市部の大人2人暮らしの面積(55平方メートル)も下回っています。息が詰まるが、ほかに選択肢はないと妥協をしている方も多いようです。

国土交通省「住宅着工統計」から推定すると、2024年に入り、面積の縮小はさらに進んでいます。住宅が狭くなる最大の要因はコスト吸収と言われ、昨今の不動産価格・資材の高騰の影響が大きいと言われます。

■「ステルス値上げ」の影響により、自分たちが過ごす住空間が狭くなっている!

国勢調査によれば、一般世帯に占める単独世帯の割合が2020年までの5年で3.5ポイント高い38%に達するなど広い家への需要は衰えつつあるとの見方もあります。しかし、単独世帯などでも収納などで住宅の狭さに不便を感じる人は多くいます。それも供給者側の都合で狭くなった面積に個人が我慢している面が大きいと判断されています。

一方、近年は建設工事費が大きく上昇しました。国土交通省の建設工事費デフレーター(住宅総合)は基準となる2015年度に対し、足元は30%程度高く、人気の住宅地は地価も上昇基調となっています。コスト増をそのまま転嫁すると、高くなり過ぎて需要が続きません。面積縮小で表面的な価格を抑える動きが増えているようです。すっかり食品などで一時、話題となった価格を据え置く一方、内容量を減らす「ステルス値上げ」と同じ図式となっています。

マンションでは面積縮小と並行して、玄関など共用部に使う資材を低価格なものに切り替えるなどの動きも目に付きます。戸建ては一般に高価格で面積も広い注文住宅が大幅に減っています。注文住宅の新設住宅着工戸数は2024年9月まで3年近く前年割れが続きました。広い注文住宅を建てる資金力のある購入者が増えない一方、富裕層は郊外の戸建てより、都心のマンションを好む傾向が強まっているようです。

■出社回帰で都心中心の家選び、頭を悩ませる「ステルス値上げ」!

富裕層はともかく、資金面で余裕のない若年層への影響は深刻です。新型コロナウイルス禍の深刻度が薄れた後は出社回帰の流れもあり、特に共働き世帯は交通の利便性が住宅選びでは欠かせない要素だが、好立地ほど広い面積の確保は困難となります。

広めのマンションの購入を検討しているが、新築は厳しい。場所によっては中古も手が出せないと考える人が増えています。安定した住まいがなければ、結婚や出産をためらう動きも発生します。住宅面積の縮小は最終的に希望の数の子を持つことを断念するなど、少子化を助長することも招きかねません。

構造的な住宅面積縮小の流れは、住宅分野だけに限定した施策では反転させにくく、高度経済成長期も住宅価格は上昇基調にあったが、賃金も上がり、それまでより広い住まいを確保する人は増えていました。現状を打破するカギも実質賃金の安定的な上昇にある為、今後の動きに注目していきたいと思います。

今後の参考にお役立てください。

法人営業部 犬木 裕

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