耐震性をきちんと検討する
2024年は1月に発生した能登半島地震や8月に発生した南海トラフの特別警報などの影響から、住宅の耐震性について気にされている方も多いと思います。
今回は住宅購入時に検討したい耐震性についてご説明します。
■中古住宅検討時に気にする点は3つ
まず以下の3点が中古住宅検討時に気にしておかなければならない点です。
1:木造戸建てで旧耐震を選択する場合は耐震改修工事を必ず行う
2:木造戸建てで2000年5月以前の物件を選択する場合は耐震診断を行う
3:木造以外の戸建てやマンションを選択する場合は旧耐震を避ける
ここで言う旧耐震とは1981年5月以前の建物を指します。
1981年6月に建築基準法が大きく改正され、国がそれ以前の建物を既存不適格住宅と位置付けているためです。
なので、1ですが、耐震改修工事が現実的な費用で実施できる(とは言え旧耐震は高額になります)木造戸建てで旧耐震を選択する場合は、耐震改修を前提にしなければなりません。
続いて2ですが、建築基準法は改正を繰り返しており、耐震性に関する規定も大きな地震被害が発生すると改正されています。
2000年6月に阪神淡路大震災の教訓を踏まえて耐震性に関する規定が改正されていますので、新耐震物件であっても2000年5月以前の木造戸建てを選択する場合は、耐震診断を実施し、必要に応じて耐震改修工事を行う必要があります。
最後に3ですが、これは耐震改修工事が現実的な費用で実施できるかという判断になります。
木造以外の戸建て住宅でも耐震改修工事を実施することは可能なのですが、耐震診断方法も改修方法も一般的ではないため、非常に高額になります。
また、マンションの耐震性は共用部の問題なので、区分所有者の一存で耐震改修工事どころか耐震診断すら実施できません。
以上が住宅購入時に検討する耐震性の基本的な内容になります。
■住宅の耐震性以外の懸念事項を整理する
地震被害となると、真っ先に浮かぶのが「地盤の善し悪し」です。
確かに悪い地盤だと良く揺れますので、建物は倒壊しやすいです。
この地盤の善し悪しは耐震診断や改修設計(新築時の設計基準)で考慮されているため、耐震診断の結果が基準以上であればひと先ず心配しなくて良いという判断です。
もちろんハザードマップで揺れやすいとされる地域は避けた方が無難ですし、切り土・盛り土の問題を抱える山を切り崩して造成された宅地、擁壁のある宅地なども避けた方が無難と言えます。
次に液状化です。
詳細は長くなるので省きますが、液状化も含めて地盤の善し悪しを判断されるものの、住宅の直下で液状化が発生した場合は、建物の耐震性と言う問題ではないので、液状化が懸念されるエリアは避けた方が良いです。
ただ、埼玉県の南部など広い範囲で液状化が懸念される地域もありますので、気にし過ぎると選択肢が狭くなる恐れがあります。
地震と切っても切れない関係にあるのが津波被害です。
津波想定エリアを避けるのが一番ですが、どうしてもそのエリアで検討しなければならない場合は、地震で家屋が倒壊してしまい、身動きが取れない状況で津波がやってくるのが最悪の状況になりますので、最低限地震で倒壊しない建物が必要となります。
以上のように活断層、液状化、津波被害などが懸念されるエリアを選ばなければならない時は、より高いレベルの耐震性を意識した方が良いという判断になります。
ちなみに木造住宅の耐震性でいうと、耐震診断の結果は数値化され、1.0が基準値となります。(1.0を上回れば基準をクリア)
1.0が上限ではないので、1.25、1.5とより高い数値が出ればそれだけ耐震性が高いと判断できます。
また、住宅性能表示制度における耐震等級も似たような考え方で、耐震等級1が耐震診断結果における1.0相当、耐震等級2が1.25、耐震等級3が1.5相当と言われます。
より高いレベルの耐震性というのは、1.0で満足するのではなく、1.5を目指すという判断になります。
■耐震、制震、免震
地震に対する建築技術は耐震だけでなく「制震」「免震」という考え方もあります。
制震構造だから(免震構造だから)安心ですというような表現がなされます。
技術的な観点だとやはり長くなるので、建築基準法における位置付けだけを説明しますが、日本の建築物はまず耐震ありきの考え方です。
ですから、制震構造だから(免震構造だから)安心ですという謳い文句の物件は、耐震性は当然ながら基準を満たしていて、それに加えて制震(免震)で安心です、というメッセージになります。
ここで注意点なのですが、制震については既存建物でもリフォームで対応できるということです。
流石に制震用の部材を取り扱うメーカーや工事業者も、前述の耐震性が前提であることを踏まえて提案すると思うのですが、「耐震性は悪いまま制震だけで効果を期待する」のは間違った判断なのでご留意ください。
非常に稀なケースではありますが、地震被害を謳い文句に、実際は効果の乏しい金物などを高額で販売する、所謂リフォーム詐欺が社会問題になった時期があります。
耐震性をないがしろにして制震だけを殊更にPRするのはおかしな主張であり、大きな地震被害の後など、こういった悪徳業者が横行しがちなので、一応覚えておいて損はないと思います。
■耐震性に乏しい住宅でも売買できる
中古住宅を検討する上で一番重要なのが、耐震性に乏しい住宅は売買してはならないという法律はありません。
不動産事業者が買い取って再販する物件でも、売主である不動産会社が耐震性を担保しなければならない法律ではありません。
つまり売りに出ている物件だから耐震性は大丈夫なんだろうという思い込みは全くの間違いです。
実際の不動産取引では、重要事項説明書に耐震診断書の有無について記載する項目があり、耐震診断書がある場合はその内容を説明しなければならないとされています。
言い換えると、良かれと思って耐震診断を実施してしまうと、売主側に説明する義務が生じ、また、それを理由に「買わない」という判断を誘発してしまう恐れがあるため、ほとんどの取引で耐震診断書の項目は「なし」とされるのが実情です。
つまりは住宅の耐震性については買主側が気にしなければならないテーマだということです。
不動産取引の現場で、売買契約を締結するまで耐震診断などは実施できないと主張する不動産会社がいますが、冒頭に記載した通り、旧耐震物件は耐震性を確認するべきであり、2000年5月以前の木造住宅も耐震改修の可能性がある、つまりは耐震改修費用を想定して予算を組む必要があるので、購入判断材料にするべき情報であり、こういった重要情報が軽視されてしまう取引なら、その物件の購入を取りやめることも含めて、本当に買っても良いかを慎重に検討した方が良いです。
ちなみにこういう書き方をすると売買は怖いな、と思われるかもしれませんが、耐震については賃貸も同じです。
新築だけは建てた事業者が責任を負わなければならない法律なのですが、中古を検討する時点で、買主は耐震性について気にしなければならないのは事実なので、甘い謳い文句で判断を誤らないよう注意したいものです。
最も住宅の耐震性は重要な購入判断材料ですので、普通の不動産会社であれば、頼まなくても説明してくれます。
これだけ地震被害が懸念される状況において、住宅の耐震性を軽視する姿勢の事業者は、それだけ質の悪い仲介会社であるとも言えますので、事業者選びの判断材料の一つとしても、耐震性をないがしろにしないことについてご留意いただければと思います。