人口減家余り時代の住宅購入~デジタル田園都市国家構想~
政府が進める「デジタル田園都市国家構想」の具体的な内容が明らかになってきました。
「27年度に東京圏から地方への移住者を年間1万人」「地方での起業を27年度に約千件」という目標を掲げたことをニュースでご覧になられた方もいらっしゃると思います。
【共同通信社 東京圏から地方移住、年1万人 27年度目標、起業千件】
政府方針がどのように受け止められているかはyahooニュースのコメント欄をご覧ください。
「現実的とは言えない」という意見が多いように思えます。
□テレワークは定着するのか?
新型コロナの影響で対応を余儀なくされる形でテレワークが普及しました。
2022年12月現在、新型コロナウィルスの感染拡大が収まったとは言い切れず、テレワークが常態化している企業も少なくないと思います。
一方、テレワークはオフィス通勤の利点を浮き彫りにしたとも言え、オフィス勤務を求める企業が少なくないのも事実です。
新型コロナの影響下で、これからはテレワークの時代だから都心にしがみつく必要はない、と地方移住を決断された方もいらっしゃって、そういった事例をあたかも新しいムーブメントのように紹介する報道なども見られました。
新型コロナも騒動から3年も経過すると、社会全体も新しい環境に適応し、ようやくアフターコロナのあり方を冷静に見ることができるようになったのではないかと感じます。
通勤の無駄を省くという点においてはテレワークの意義があるのですが、「オフィス勤務が完全にテレワークに置き換わるとは思えない」「テレワークを前提に住宅購入を行うと自らの選択肢を狭めてしまう」と、実際のところ地方移住というのはそれほど大きな波にはなっていないのではないかと思います。
□首都圏から地方への移住促進だけでは問題解決できません
政府が提唱する「デジタル田園都市国家構想」のホームページがあります。
「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指すとあります。
この政府の方針は人口減少、極端な少子高齢化を迎える現状を鑑みるに、あまりに理想論過ぎると言わざるを得ません。
いくらデジタル技術が発達しても、生活に必要な物資は誰かが運ばなければならないですし、電気・ガス・水道などのインフラをデジタル化できるわけでもなく、そう遠くない将来に顕在化すると言われている、全国のインフラの維持・保全の問題を棚上げにして、「全国どこでも」とは軽々しく言うべきではないと思います。
より現実的に考えるならば、どこでも移住ではなく、地方ごとに中核となる都市を設定し、人が住むエリアとそうでないエリアを取捨選択していく政策が必要です。
首都圏から地方への移住を促すだけでなく、地方の過疎地域に住む人も中核都市への移住を促進するべきと言えるのではないでしょうか。
□テレワークが定着すれば都心から地方へ人が動くのか?
住む場所を選択する理由の中で「仕事がある」というのは非常に大きな要素です。
デジタル田園都市国家構想でも、テレワークを活用すれば転職をしなくても移住を実現するという表現が見られます。
テレワークが日本の社会に定着するかどうかは甚だ疑問であると冒頭に述べましたが、仮にテレワークが定着したとしても、それだけで地方への移住を選択するとは思えません。
若者搾取という表現があります。
街を維持するには住民は自分の家だけを管理すればよいのではなく、地域の維持保全にも手間をかける必要があります。自治会や消防団などの活動です。
都市部に住んでいるうちはこれらの活動を積極的に行わなくても生活は成り立ちます。
しかし、地方で人口(特に若い世代)が少ない地域では、移住者は新しい仲間ではなく、単なる若い労働力とみなされるケースも少なくありません。
若い世代が頑張る分高齢世代が若者に価値を提供することができれば上手く機能するかもしれませんが、「自助・公助・共助」という建前を使っているようでは、若い世代の信頼を得ることは困難です。
□地方は若者に古い空き家を押し付けてはいないか?
住む人がいなくなった古民家と言っても過言ではないような家を移住先として格安で提供する事例がニュースで紹介されていました。
家計における住居費の割合は高いので、「住む」にかかるコストが下がるのは魅力的です。
だからと言って出涸らしのような家を押し付けるのは問題です。
一番の問題は住宅性能です。
かつては古い空き家だったものを住宅性能も含め全体的にリノベーションするのなら問題ありません。
しかし、これら空き家の事例は「安さ」を売りにしているので、内装程度は手を入れているかもしれませんが、住宅性能はおざなりにされているのではと危惧しています。
地方に住むことで住居費が安上りになったとしても、大きな地震被害に見舞われて、家族の生命が脅かされるような事態に陥っては意味がありません。
政府の方針の上辺だけを切り取って、地方の都合を若者に押し付けるようなことはあってはならないと思います。
□求められるのは魅力ある地方中核都市の再構築
人口減少問題に具体的な解決策が見られない以上、日本の社会も適切にサイズダウンすることが求められます。
文中で「人が住むエリアと住まないエリアを取捨選択する」と記載しましたが、実は政府は「立地適正化計画」という政策を実行しています。
制度の概要ではなく、各地方自治体による具体的な動きを見てみることをお勧めします。
※立地適正化計画 〇〇市というように検索するとたどり着けます。
資料のまとめ方は各自治体によるので、いくつか自治体をピックアップして、資料が見やすい、馴染みのある自治体を選んでいただくと良いと思いますが、現時点の計画で「どこが人が住まないエリアに設定されているか」という観点で資料を見ると、玉虫色の計画になっている自治体が多いことがわかります。
人が住まないエリアは土地の価値が下がることが予想されるので人が住むエリアを指定することが難しいのはわかりますが、これでは立地適正化計画の本質からずれてしまいます。
社会を適切にサイズダウンするということは、街をリストラするということです。
当然ながら痛みを伴います。
しかし人口問題を解決しない以上、選択肢は限りなく少ないのも事実です。(なんだか倒産寸前の企業みたいですね…)
魅力ある都市とは人が集まる街です。
他所から持ってくることばかりに捉われず、地方過疎地から地方都市への移住促進することも重要ではないでしょうか。
テレワークと安い住居費をえさに、本来その地域が抱えるべき問題を若者に押し付けるような政策では上手くいくわけがありません。
□これから家を買う方へ、ババ抜きのババを引いてはいけません
人口減家余り時代で何が起こっているかというと「人が集まらない街での売れない家の押し付け合い」です。
どれだけ安い家であっても所有してしまうと相応の責任を伴います。
ババ抜きのババを敢えて引くような選択は行わないようにご注意ください。
地方移住に関することで「いいな」と思ったことは、マイナス面やリスクに目を向けることをお勧めします。
情報が開示されていれば検討の余地はありますが、情報が隠されている場合は深追いするのを止めた方が無難です。
また、住宅購入は街選び、自治体選びという側面もあります。
自治体の政策を見るだけで、街の行く末を想像することができますので、地方移住を検討する方は、家とかご自身の環境だけに捉われず、広い視野で情報を集めることが大切だと思います。