住宅ローンの「不適切利用」についてご存知ですか?!

突然ではありますが、皆様、住宅ローンの「不適切利用」についてご存知でしょうか?

住宅金融支援機構が提供する長期固定金利型の住宅ローン「フラット35」を巡り、会計検査院が2017~18年度に融資を受けた物件で自らが居住せずに第三者に賃貸するなど本来の条件を逸脱した状態だった利用が計56件、約19億円に上ったと指摘しました。検査院はこうした状況を「不適切」とした上で、全額償還請求などの措置や調査体制の見直しを機構に求めたようです。

■「フラット35」という住宅ローンについて

そもそも「フラット35」は住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して提供する住宅ローンの事です。一般的には政府系金融機関とも呼ばれる為、ご存知の方も多いと思います。融資期間は最長35年で全期間で金利が固定される仕組みで運用されています。新築や中古住宅を買う人が融資対象で上限は8000万円となっています。金融機関が融資し、債権を同機構が買い取る形で運用されています。金額ベースでは民間を含めた住宅ローンの利用実績の約1割を占め、2021年度末時点で同機構の買い取り債権残高は18兆5000億円超に上っています。

■今回の「フラット35」の不適切利用とは?!

フラット35は本人や親族が住む住宅の購入が融資の条件で、第三者に貸す投資用物件の購入資金などに充てることは認められていません。勿論、急な転勤等になってしまい、正当な理由がある場合には多少の猶予はしていただけます。その為、この不適切利用とは、確信犯的な投資目的での利用等となります。過去にも投資用物件に利用されるなどの不適正な融資が発覚していました。

検査院は、過去に不適正な事例が発覚した大都市にある中古マンションの購入用などの融資から計7100件(20年度末の融資残高1996億6641万円)を抽出して、物件の用途や居住実態などを調べました。その結果、自らが居住せず第三者に賃貸していたケースが45件(同15億1735万円)、住宅用から事務所や店舗などに用途変更されたケースが11件(同3億7353万円)あったようです。うち融資当初から居住実態がないケースは5件(同1億5353万円)だったようです。本来の融資条件から外れた利用は件数ベースで調査対象の0.7%、残高ベースで0.9%に上ったようです。

そもそも、このような不正利用がされる利用として「金利」の違いがあるからです。一般的には投資用のローンと住宅ローンでは、金利差が大きく、投資用ローンの方が金利が高くなります。その為、投資をしたい物件に低利な住宅ローンが使えると、投資家の方のローン負担が軽くなります。そのような負担軽減を狙った手口が今回のような不適切利用に繋がっているものと推測されます。

■住宅ローンの不適切利用の実例について

2018年7月に東京都港区の中古マンションを別荘として購入するとして約5000万円の融資を受けた利用者が購入から約10カ月後に機構に知らせず第三者に賃貸した例や、同葛飾区の物件購入のため約3500万円の融資を受けた1年4カ月後に事務所として第三者に貸した例などが確認されたようです。

検査院は56件の利用実態について「適切ではなく、是正を図る必要がある」と指摘。不適切利用が発生する原因として、住宅金融支援機構の調査規定の不備を挙げています。

そもそも住宅金融支援機構はフラット35についての融資返済が滞った場合などに限り、金融機関に指示するなどして住宅の状態を調査することを内部規定で定めています。しかし、それ以外では融資後の居住実態などを調べる規定はありませんでした。検査院は「融資対象が継続して要件に適合しているかどうかの状況を把握することの重要性の理解が十分ではない」と指摘しました。不適切な利用が確認された場合は、居住用に戻すか、残債の全額繰り上げ償還などを請求するよう機構に是正を要求しました。調査に関する規定についても早急に整備するよう求めています。その為、今後は融資後の居住実態の調査が盛り込まれるかもしれません。

■過去にも住宅金融支援機構は不適切利用を公表していたが・・・。

フラット35を巡って、住宅金融支援機構は2019年5月にも特定の不動産会社などが関与して顧客に投資用不動産として利用させた疑いについて公表し、その後、162件で不適正な融資があったと明らかにしました。投資目的で利用した場合は残債を全額返済することを了承する書面の提出を利用者に求めるなど再発防止策も公表していました。検査院は今回、この時の調査も分析した。調査では事務所などへの用途変更の有無は未確認でした。検査院は「今回の調査で見つかった不適切な利用実態は氷山の一角」としているようです。

住宅金融支援機構は「検査院からの指摘を真摯に受け止め、9月末に融資後の調査規定を整備した。不適切な利用を防ぐために適切かつ着実に対応したい」とコメントを発表したそうです。機構は検査を受ける過程で、融資後に実施する居住実態調査の手法などをマニュアル化し、担当職員も増やしたようですが、融資後に実際に居住用として使われているかどうかを調査するのは容易ではありません。そもそもフラット35を利用して融資を行った対象物件は21年度末で83万件超に上るそうです。私も、フラット35を利用している者として、これから居住実態の調査を行われるのかも気になるところです。今後はいかに効率的な調査手法を確立できるかに注目をしていきたいと思います。

法人営業部 犬木 裕

関連記事一覧