エコノミー症候群を予防するには

先月、台風15号の影響で静岡県など東海地方では記録的な大雨となり、浸水等の被害が相次ぎました。大雨や地震などにより、やむを得ず自宅を離れて避難すると、被災によるストレスなどで体調を崩しやすくなります。
今回は、エコノミークラス症候群などによる災害関連死の危険性が問題となった「新潟県中越沖地震」について考えます。

2004年(平成16年)10月23日17時56分頃、新潟中越地方を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生しました。
新潟県川口町(当時)では、震度計による観測史上初となる最大震度7を観測し、その後も震度6強の強い地震が続いたことで、新潟県など大規模な土砂災害に見舞われました。
また、上越新幹線が脱線するなど、交通にも大きな影響が出ました。
地震による新幹線の脱線は、東海道新幹線が開通した1964年以来、初めてのことです。
死者68人、重軽傷者4,805人、住家被害は120,000棟以上にのぼるなど甚大な被害が発生し、気象庁はこの地震を「平成16年(2004年)新潟中越地震」と命名しました。

10月23日の本震の後、震度5弱の地震が頻発し、12月28日までに発生した震度1以上の体感地震は実に877回に及びました。
長引く余震で、住宅の倒壊など二次災害の懸念が大きかったため、ピーク時には約600か所の施設で10万人以上の住民が避難生活を余儀なくされました。
なかなか自宅に戻れない状況の中、避難所と比べてプライバシーを確保できる車中泊を選択する人が増え、内閣府の資料では、3万人以上が車中泊を行ったとされています。

新潟県中越地震の特徴の1つに、死者68人のうち52人が「災害関連死」だったことが挙げられます。災害関連死とは、地震や火災など災害の直接的な被害ではなく、被災後の避難生活において、ストレスや疲労の蓄積、環境の悪化などによって発病したり、持病が悪化したりして亡くなることです。
この地震では、特に、車中泊での「エコノミークラス症候群」によって死者が出たことが問題となりました。

エコノミークラス症候群とは…

食事や水分を十分にとらない状態で、車など狭い座席に長時間座って足を動かさないでいると、血の流れが悪くなって血液がたまりやすくなります。
血のかたまり(血栓)が血管を流れて肺に到達し、肺の血管が詰まって、胸の痛みや息切れなどの症状が現れることがあります。これが肺塞栓症(はいそくせんしょう)で、エコノミークラス症候群と呼ばれます。
狭い所で座ったまま長時間過ごし、足を動かすことが少なければ、どこでも発生する可能性があるため、同じ姿勢で過ごすことが多い車中泊や避難所での生活では、特に注意が必要です。

【予防方法】

内閣府の資料によると、新潟県中越地震では、避難住民の約20%に肺塞栓症の原因とされる下肢深部静脈血栓症(DVT)が発症していた可能性があります。また、震災直後の検査では、震源地に近い新潟県小千谷市で車中泊をしていた被災者の30%にDVTが認められました。エコノミークラス症候群は、重症化すると死に至ることがありますが、主に次のような方法で予防することができます。
・時々、軽いストレッチ運動を行うなど、できるだけ体を動かす
・十分な水分をとる
・ゆったりとした服装で過ごす
・かかとの上げ下ろし運動、足の指やつま先を動かすなど、足の運動をする
・眠るときは足をあげる
特に、足首を回す、ふくらはぎを軽く揉む、つま先の上下運動をする、足の指を開いたり閉じたりするなど、こまめに足の運動を行うことが大切です。
また、足に圧力を与える効果のある弾性靴下やストッキングを着用すると、足の静脈が圧迫され、血流の滞りを防いで血流を良くする効果があるといわれています。
こうした予防グッズを用意するのも良いでしょう。

大雨や地震などによってライフラインが断絶すると、復旧までに数日から数週間かかることがあります。
避難所ではトイレの使用をためらって水分を制限したり、窮屈な姿勢を強いられたりするため、車中泊だけでなく、避難所での生活においてもエコノミークラス症候群のリスクが高まります。
避難生活での災害関連死を減らすために、自治体などでは、避難所でのストレスを軽減し、エコノミークラス症候群を防ぐための取り組みが行われています。
いざ、という時に自分の身を守ることができるよう、対策を心掛けてください。

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