法律で定められた耐震基準と消費者が期待する耐震性の違い
1月1日に発生した令和6年能登半島地震は甚大な被害をもたらしました。亡くなられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、被災された方、そのご家族及び関係の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
今回は耐震基準について、建築基準法における考え方、建築基準法を踏まえた事業者の考え方、消費者が期待する安心の違いについてご説明いたします。
※今回の記事は木造住宅が対象です。
建築基準法における耐震基準は「最低基準」です
法律に詳しい方はご存じかと思いますが、多くの場合法律で定める基準は最低限守らなければならないラインという位置付けになります。
そしてこの守らなければならないラインを逸脱する行為があると罰せられることになります。
ただ、最低ラインだけだと不都合が起きるので、最低ラインを踏まえた少し上の基準が設けられることがあります。文面では「推奨する」と書かれたり、「努力義務」と表現されることもあります。
以上のことを踏まえて、建築基準法における耐震基準についてご説明します。
建築基準法が定める耐震基準は「最低限守らなければならないライン」です。
1981年6月以降の「新耐震基準」では「中地震では軽微なひび割れ程度の損傷にとどめ、震度6程度の大規模な地震で建物の倒壊や損傷を受けないこと」と定義されています。
ちなみに1981年5月以前の建物は「旧耐震基準」と言われ、既存不適格住宅、つまり何らかの対策が必要だと位置付けられています。
木造住宅で言うと2000年6月にも耐震性に関する基準が改正されています。
整理すると、
2000年6月以降の耐震基準
1981年6月以降の新耐震基準
1981年5月以前の旧耐震基準
の順番で耐震性をざっくりと判断することができます。
様々な耐震基準
ここからは最低限ではない+αの基準についてです。
建築基準法が定める耐震基準以外にも、耐震性に関する基準はいくつもあります。
※もっともこれらの基準も公的な基準なので、建築基準法と関係があります。
まずは耐震診断の基準です。(一般的な固有名称がないためこの記事では耐震診断の基準と表記しています)
建築基準法の耐震基準とは別に、耐震診断の基準が定められており、表向きはこの耐震診断の基準と建築基準法の耐震基準は同等とされますが、耐震診断や改修工事に詳しい方なら、耐震診断の基準の方がより安全な判断になると理解されているものです。
※余談ですが、建築基準法では小規模な建物の場合に壁の配置バランスなどの構造計算が省略される特例があり、他方で耐震診断では壁の配置バランスの計算が含まれるため、耐震診断の基準の方がより安全(より厳しい)基準であると認識されています。(違いは他にもありますがここでは割愛します)
ここまでを整理すると
耐震診断の基準
2000年6月以降の耐震基準
1981年6月以降の新耐震基準
1981年5月以前の旧耐震基準
の順番となります。
続いて性能表示制度における耐震等級です。
耐震等級3などの表記を見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。
耐震等級は1から3まであり、耐震等級1が建築基準法耐震基準と同等レベル、耐震等級2は1.25倍、耐震等級3は1.5倍と想定されています。
先ほどの情報とあわせて整理すると
耐震等級3
耐震等級2
耐震診断の基準 耐震等級1
2000年6月以降の耐震基準
1981年6月以降の新耐震基準
1981年5月以前の旧耐震基準
ということになります。
消費者が求める安心の基準
これから家を買う方は耐震性が気になる所だと思います。
日本は災害大国なので絶対に壊れない建物というのは存在しません。(地震力の最大値が不明なため)
その上で国は「中地震では軽微なひび割れ程度の損傷にとどめ、震度6程度の大規模な地震で建物の倒壊や損傷を受けないこと」を最低基準と設定しています。
語弊を恐れず表記するならば、地震で倒壊しないことが目的で、その後住み続けることができるかどうかは別問題、更に想定している地震動は震度6程度なので、今回の能登地震のような想定を上回る地震が発生したらその限りではない、ということになります。
消費者が求める地震に対する安心とは、そのような国の最低基準ではなく、「阪神淡路大震災や東日本大震災のように近年で経験したことがある大きな地震」が来ても倒壊しない、「損傷しても軽微な修繕工事で住み続けられる」、「できれば傷一つつかない」そんな性能を希望されている雰囲気を感じます。
ここまでの説明で消費者が求める耐震基準と、国が設定している耐震基準に乖離があることはご理解いただけると思います。
ただ、消費者が求めるレベルの基準を最低としてしまうと、それはそれで問題が生じるので、まずは法律で定められる耐震基準とは最低基準であることを正しく認識し、地震被害に対して普通の家よりも対策を講じたい方は、建築基準法よりも上の基準を検討する、というのが正しい判断となります。
耐震等級3の家が絶対壊れないとは言えないですが、建築基準法の耐震基準で建てられた家より地震に対して安心できる、という考え方になります。
事業者の考える耐震基準
最後に事業者が考える耐震基準についてです。
結論を申し上げると、「事業者によってまちまち」です。
例えば技術力を売りにしている新築ビルダーは耐震等級3が当たり前のように取り扱います。
反対に中古住宅を買い取ってリフォームして再販する事業者は、新耐震基準であれば大丈夫でしょう、という判断をしている会社も多いです。
旧耐震物件の売買が禁止されているわけではないので、ポータルサイトの物件広告には旧耐震物件の広告もたくさん掲載されています。
このように事業者の立ち位置によって取り扱う耐震基準が異なるので、事業者が言う「耐震は大丈夫です」はそのまま鵜呑みにしてはいけません。その人がどの基準で話をしているかを確認した方が良いです。
先ほど整理した情報だと多いので、下記のいずれで大丈夫だと判断したのかを確認することをお勧めします。
耐震等級を取得している
耐震診断を実施している
建築基準法で判断している
このうち建築基準法で判断しているケースの場合は、あくまで最低基準でしかないので、皆さんが思う安心の基準とは乖離があるとご認識ください。
建築基準法だけで判断されている場合(2000年5月以前に建てられた木造住宅の場合)は建築士による耐震診断を実施することをお勧めいたします。
以上、耐震基準にも色々ある、というご説明でした。
あまり掘り下げ過ぎると難解な分野の話題ですので、ご自身で無理して判断するのではなく、耐震性について納得のいく説明をしてもらえる、任せられる事業者探しをはじめに行うことをお勧めいたします。