大地震と住宅購入

8月8日に「南海トラフ地震臨時情報」が発表され地震災害のリスクをいつも以上に身近に感じ、いろいろとお考えになった方も多いと思います。
中には避難グッズの見直しや家具の固定など具体的に行動された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は大地震と住宅購入についてご説明いたします。

■大地震は来ます。必ず来ます。でもいつ来るのかわかりません。

日本は災害大国です。
日本に生まれて日本で過ごす以上、一生で一度は大地震の被害に見舞われるリスクがあることは、これまでの歴史が証明しています。
防災を取り扱う専門家の中でも、来るか来ないかわからない大地震ではなく、いつ来るかはわからないが必ず来る大地震として位置付けられていて、日本に住む以上、地震に対する備えを怠ってはいけないのです。
今回臨時情報が出された南海トラフ地震のような、海溝型と呼ばれる地震は、一定の周期で発生していることがわかっており、また、大規模な津波災害を伴うことから、大地震への備えが重要となります。

住宅購入と地震対策がいま一つ結びつかないかもしれませんが、住宅購入は最も効果的な地震対策と言われるくらい重要な意味を持ちます。
目先の金額や快適さに惑わされることなく、必ず検討しなければならない防災の観点を忘れないようにしてください。

■災害リスクが低い街を選ぶ

一旦住宅を所有してしまうと地震対策はかなり難しくなります。
例えば家屋の耐震性に問題があると指摘されても、耐震改修には多額のコストがかかるので、気軽に実施できません。
マンションの場合は共用部の問題なので、区分所有者の一存ではそもそも工事が実施できません。
津波被害が想定されているエリアの場合は、日頃からの「避難癖」が生死を分けると言われています。
「空振りではなく素振りである」「100回無駄に終わっても101回目で活かせればそれでいい」津波被害が警戒されるエリアでは、津波警報の度に空振りとわかっていても避難行動を取らなければならないのです。
耐震改修にお金もかけられないし、いちいち避難するのも億劫だ。災害が起きたらその時はその時でいいよ、とおしゃる方がいますが、それは大きな間違いです。
大切な家族が被害にあってしまった時に同じことは口が裂けても言えないからです。

住宅購入は最も効果的な防災対策と言われるのは、大地震で倒壊しない性能の家を選ぶ、津波や土砂災害警戒区域を選ばない、など、災害を避ける選択ができるからです。

皆さんは1日のうちどれくらいの時間をご自宅で過ごすでしょうか。
睡眠時間を想定した場合、少なくとも8時間は自宅で過ごされているのではないでしょうか。
大地震を考える場合、耐震性能が確保された家に住むということは、ご家族の地震で被害にあうリスクを最低でも1/3は軽減できるということです。
既に自宅を所有されている方は耐震改修のコストを負担しなければならないのですが、これから家を買う方は、耐震性能が担保されていない住宅を選ばないだけで対策を講じることができるのです。

■耐震性能を見分ける方法(マンション)

マンションの場合は建築年度で見分けます。
1981年6月で「新耐震」「旧耐震」に区分されますが、「旧耐震」を選ばないことが最低限の対策となります。
建物の耐震性は共用部の問題なので、住民の合意が得られないと耐震改修どころか耐震診断すら実施できません。
マンションの耐震診断も耐震改修工事も非常に高額で、また、長期修繕計画には含まれない内容なので、住民が追加でこれらの費用を負担する必要があり、お金の問題で実施できないことが多いです。
1981年6月は建築基準法の改正で、建物を建てるルール変更が行われたタイミングであり、事業者の中には旧耐震でも大丈夫という主張をする方がいらっしゃいますが、国が既存不適格と認めている以上、「旧耐震」を選択するということは相応のリスクを覚悟するということであり、一般の消費者にとっては難しすぎる判断と言えます。
新耐震なら問題ないかというとそうとも言えず、耐震性能は建物の劣化状況に大きく影響されるため、大規模修繕が計画通りきちんと実施されているかなどの確認が必要ですが、管理組合などに問い合わせをしないとわからないことなので、物件探しの初期段階においては、特に大地震の被害が想定されている地域においては、なるべく築年数が新しい物件を選ぶというのがわかりやすい対策になります。

マンション検討の場合でも街選びは重要です。
活断層の影響が懸念されるエリアは直下型地震が懸念されるので避けたいところですし、東日本大震災では千葉県浦安市で被害が見られましたが、液状化が懸念されるエリアも避けたいところです。
ハザードマップを良く見て検討するのが良いのですが、いちいち確認するのが面倒な方は、歴史のある街、古くからある街は災害リスクが低いこと、また学校や消防署など公共施設の周辺も比較的災害リスクが低い傾向があることなどを念頭に置いておくと物件探しの際に役に立つと思います。

■耐震性能を見分ける方法(戸建て)

戸建ての場合もまずは建築年月で判断します。
マンションと同じで「旧耐震」を選ばないのが最低限の対策となります。
ただ、マンションと違って戸建ての場合は耐震改修工事を実施して対策を講じることができます。
しかし「旧耐震」の耐震改修工事は多額のコストが必要となるケースが多いので、余程の理由がない限り旧耐震を選ばない方が無難と言えます。

戸建ての場合は2000年6月というタイミングも重要です。
阪神淡路大震災の教訓を受け建築基準法が改正されたタイミングで、基本的には2000年6月以降の建物を選択するのが無難です。
2000年5月以前でも新耐震なら大丈夫なのでは?と思われる方もいらっしゃると思いますが、2016年の熊本地震などで新耐震でも2000年5月以前の建物で被害が出ており、新耐震だから大丈夫、ではなく、2000年5月以前の建物を検討する場合は、最低でも耐震診断を実施した方が良いでしょう。

また、リフォームや増築によって本来有していた性能を損なっている住宅もあります。
戸建てを検討する際は売主のリフォーム履歴を確認し、構造に影響するリフォームを実施している場合は、築年数が新しくても建築士に相談するようにしましょう。

■防災対策は「やらなければならないこと」です

住宅購入は将来への夢が広がる楽しい行為です。
防災対策はかなり現実的な検討なのでそういった楽しい雰囲気を壊してしまうテーマになります。
でも防災を考慮しない住宅購入はあり得ません。
購入した後から対策を講じる方が困難だからです。

こういった「やらなければならないこと」は夏休みの宿題と同じで、やらないで放置すると後々自身に帰ってきます。
防災においては、家族が被害にあった場合に降りかかります。
天災は人ではコントロールできないため、「天災なら致し方ない」とよく言われますが、ご家族に被害があった場合に「仕方なかった」に至ることができるのは、出来得る限りの対策を講じた人だけです。
ご自身の甘かった判断を後悔し、ご自身の命は助かっても心は救われないのです。
過剰に心配し過ぎるのも良くないのですが、だからと言って一般的にやっておいた方が良いと言われていることを無視して良い理由にはなりません。
大切なのでもう一度。
住宅購入において防災に関してエリアや建物性能を検討することは”最低限”やらなければならないことです。

住宅購入検討時に周りにいる事業者があまり当てにならないのも注意が必要です。
災害などのマイナス情報は法律で決められた範囲しか伝えない業者が多く、事業者からのアドバイスを待つよりも、こちらから積極的に確認することが必要です。
(もちろん当社はマイナス情報も含めて積極的に情報開示しますが、契約成立を優先する事業者があきれるくらい多いです……)
ただこういったことに気を掛けないといけないのはストレスなので、不動産取引は事業者選びが重要だと思います。
物件探しの初期段階は物件に目が行きがちですが、まずは信頼できる事業者探しの方が重要なので、積極的に事業者へアクセスして、事業者の質を見極めることをお勧めします。

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