旧耐震は難しい選択肢です

無印良品とURによる団地リノベーションプロジェクトがあります。
https://www.muji.net/ie/mujiur/
ホームページにはたくさん資料が掲載されていて、プロジェクトの取り組みや対談記事、過去のトークイベントの資料などを見ると、詳細を確認することができます。
資料にもありますが、昔の団地は日当たりや周辺環境などが優れているものも多く、古臭さを払拭できるのであれば検討してみてもいいかも、と感じる方も多いのではないでしょうか。
無印良品とURによるプロジェクトは一例になりますが、団地に限らず古い住宅をリノベーションで再利用する動きは全国各地で見られます。

■古くなった住宅は蘇るのか?

まず技術的な観点で言うとどれだけ古い住宅でも現在の安全基準まで改修することは可能です。
問題なのは経済的合理性があるかどうかということです。平たく言うとお金がかかるということです。
古くなった住宅を蘇らせるよりも、新しく建て替えた方が良いケースも多くありますし、マンションや団地などは他の目的に転用をする方が合理的な場合もあります。
それぞれの建物には悪い面だけでなく良い面もたくさんあるので、良い面の利用価値が改修費用を上回れば再生して住むという判断になります。
多くの人が勘違いしていることになりますが、建物が古ければ古いほど安くなるというのは間違いです。ある程度の年数を超えると改修費用が高額になるので、古すぎる住宅は高くつくというのが正しい認識となります。

■旧耐震物件が難しい理由

建築基準法を基準に考えると、旧耐震物件は既存不適格住宅という取り扱いになるので、耐震改修を含めた改修工事を実施するべき住宅と言えます。
ただ、旧耐震物件の耐震改修工事は義務化されているわけではないので、当事者は実施しなくてもよい理由を懸命に考えます。
例えば旧耐震マンションです。
多くの建築士は旧耐震のマンションは耐震診断だけでなく改修工事も必要と判断することが多いのですが、耐震性能の判断方法にも様々な例外があるので、一部の建築士はそういった例外を組み立てて、旧耐震であるものの新耐震基準相当の性能を有していると判断する人もいます。
耐震性を証明する書類で耐震基準適合証明書というものがありますが、この証明書があると普通の人は「この物件は耐震性の基準をクリアしている」と判断してしまいます。
実際に耐震改修された建物と、理屈をこねた建物とで、どちらが安全か?と言われれば答えは明確ですが、こういった情報は売買や賃貸の際に消費者に伝わらないのが大きな問題と言えます。

■トルコの大地震から何を学ぶのか

旧耐震マンションを積極的に販売している人や、リフォーム予算の関係で旧耐震物件を選ばざるを得ない人は、本来は実施するべき耐震改修工事について、「いつ起こるかわからない地震に対して過剰に反応するのは合理的ではない」というような論調で、捏ねくり上げた理屈を正当化しようとします。
今回はテーマと異なるので詳細については割愛しますが、こういった理屈で本来やるべきことから目をそらした結果被害が拡大したのが2023年2月6日に発生したトルコ・シリア地震です。
日本と同じく過去に大きな地震被害に見舞われている地域ですが、トルコ政府は経済的合理性から本来耐震などの対策が必要な建物についても一定の条件を満たせば猶予する措置を取っており、このことが被害を拡大する要因となったと大きく批判されています。
日本とトルコ、国は違えどこの問題の本質は同じく「お金」です。改修費用です。
地震などの災害については、まずは「安全」を求めるのが普通の判断だと私は思います。

■影響力のある企業による悪影響

本記事のタイトルでもありますが、旧耐震の物件は本当に判断が難しいので、一般のお客様にはお勧めできません。
懸念されるのがテレビやインターネットの情報を鵜呑みにしてしまうことです。
例えば冒頭でご紹介した無印良品とURのプロジェクトは賃貸のものですが、旧耐震の団地案件は売買されるものもあります。
無印良品とURがプロジェクトを行っているからという理由で、無印良品やURと全く関係ない事業者による旧耐震の団地案件を安易に選択してしまうケースが起こり得ると思います。
別の例で挙げると、自治体などが推進している古民家再生プロジェクトです。
旧耐震戸建てを内装だけ今風に綺麗にして、地域再生の事例としてテレビなどでよく紹介されます。
こういった情報を見た方が「外側が古くても内装だけ綺麗にすればOKなんだ」と誤った認識を持ってしまうことが懸念されます。
もちろんきちんと耐震改修を実施している例もあるのですが、そうではない、内装工事だけを行った事例を地域再生プロジェクトとして懸命に紹介する自治体などもありますし、youtubeなどでは、古民家を安く買ってDIYして住むという事例が紹介されていたりします。

途中でも申し上げましたが、きちんと対応している旧耐震物件は決して安くはないです。特に売買の場合、購入してしまうとあとは所有者の自己責任になってしまうので、安易に判断するのはお勧めできません。

■どうしても旧耐震が気になる方は「売る側」でない専門家の意見を求めましょう

不動産業界は売主主体の業界と言えます。
多くの不動産業者の方にあなたの仕事は何ですか?と聞くと「家を売ること」です、と答えると思います。
売る側の立場の人は、何としてでも売らなければならないため、売るための理由を捏ね上げます。
途中でご紹介した耐震性に対する見解も同じで、改修費用が多くかかりますよ、では売りにくいので、改修しなくても良い理由をもっともらしく並べてしまうのです。
とは言え様々な事情からどうしても旧耐震を検討せざるを得ない場合もあると思います。
旧耐震を検討する際は、窓口になっている不動産会社だけでなく、第3者として意見を貰える専門家を絡めるのがお勧めです。
そんな専門家ってどうやって探せばいいのか?と思われるかもしれませんが、意外と簡単で、リフォームをお願いする事業者に耐震性について意見を求めるだけでいいです。
相談している不動産会社がリフォームも行う場合は、別のリフォーム会社に意見を求めてください。
建築業界には「良いものを創る」という価値観もあるので、「売る側」に寄っていない情報を提供してもらえると思います。

何度か書きましたが大切なのでもう一度。
安さを求めて旧耐震案件を選ぶのは判断が間違っています。一定の年数を超えた建物は改修費用が高くなるからです。
旧耐震なのに改修工事を行わなくても良いという理由は何かが間違っています。必ず反対側の意見を求めるようにしましょう。

 

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