捨てられつつある街を選択するリスク

1月1日の能登半島地震から一気に防災モードとなった雰囲気ですが、この年末年始に日本が抱える大きな社会問題に関する情報が出ていました。
これから家を買う方にとって目を背けることができない「人口問題」です。
今回は住宅購入時に検討しなければならない「街選び」についてご説明します。

■将来の人口減少は避けられない事態です

2023年のはじめに岸田総理が「異次元の少子化対策」という発言をし、2023年の年末には東京都の高校無償化や多子世帯の大学無償化などの少子化対策が大きな話題となりました。
2023年の日本の人口は1億2242万人余りで、効果のある対策が打てなかったら2100年に半減の6300万人(最悪の想定は5100万人)と予測され、出生率が2.07に改善されたとしても8000万人に減少すると想定されています。

日本の人口問題 有識者が提言「2100年に8000万人目指すべき」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240109/k10014314671000.html

NHKのニュースを見ると政府が少子化対策を講じて出生率を改善していくのだと少し期待してしまうのですが、一方で下記のようなニュースも報じられています。

合計特殊出生率の実態は公表値よりも低いという不都合な真実
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4bfb6a05ea9d6559b4a9a7dddbf443fe33c4af67

検討の前提となる出生率そのものが実態と異なるという内容です。記事にはより事態に近い2022年の出生率は1.18%しかないと書かれてあるので、先に紹介したNHKの記事にあるところの最悪のケースに向かっていることが懸念されます。

余談ですが、ご紹介した関東学院大学経済学部教授島澤諭氏の記事は、記事内で別で紹介されているレポートも含めて非常に参考になるのでご一読されることをお勧めします。

また、NHKのニュースで登場した日本郵政社長の増田寛也氏は、「消滅可能性都市」を示唆した「増田リポート」でも有名な方で、10年経過した今、状況は改善どころか、悪化の一途を辿っていると警告されています。

「消滅可能性都市」1000超に拡大も 政府に増田元総務相が苦言
https://mainichi.jp/articles/20231230/k00/00m/010/117000c

色々書きましたが、日本の人口減少は避けられない事態であり、改善どころか悪化の一途を辿っていると判断した方が良さそうです。

■人口が維持できる街と捨てられる街

人口問題が住宅購入にどう影響するのか、いま一つ繋がらない方もいらっしゃるかもしれません。
語弊を恐れず表現するならば、今の日本の住宅市場は壮大なババ抜き合戦の真っ最中と言えます。
ここで言うババとは、現状で住むことができないような欠陥住宅を指すのではなく、将来売ることも貸すこともできなくなる「負動産」化が懸念される住宅を指します。

人口が減るということは、家を買う人も借りる人も減るということです。将来家を売る立場で考えると、買主や借主を探す競争率が上がるということになります。
現時点で広告情報が出たらすぐに売れてしまう「人気物件」なら将来的にも期待が持てそうですが、現時点で長らく広告が出たままの物件や、不動産会社がお勧めしないと売れない物件に手を出してしまうと、将来お金に変えなければならないタイミングで苦労しそうだ、という判断になります。

また、難しい問題として人口減少は全国押し並べて均一に減少するのではなく、現象が著しい箇所とそうでない箇所とで極端に分かれることです。
都道府県や市区レベルでの検討というのは大雑把過ぎるので、細かな「街選び」が重要となります。

人口減少により捨てられゆく街は、現時点で享受できている社会サービスが徐々に減っていく街でもあります。
大型ショッピングモールがあるから大丈夫、という方がいらっしゃいますが、民間商業施設は採算が取れなくなると撤退します。
ひと昔前ですが、大学のキャンパスがあるから賃貸アパートは安定収入だ、と言われていた時期がありますが、大学も少子化の影響を大きく受けているので、経営状況改善のためにより学生を集めやすい街への移転が行われていますし、大学の経営破綻もニュースで出るようになりました。
このように○○があるから、という安易な依存が成立しないのが捨てられゆく街の特徴です。
今や生活になくてはならない存在となったコンビニエンスストアも人口減少によって撤退を余儀なくされますし、重要な社会インフラである病院も人口減少では維持できません。
今後も住む街と人が住まなくなる街の選別が、じわじわと、着実に進行していると言えます。

私たちが当たり前のように使っている生活インフラも人口減少により採算が合わなくなると徐々に不便になっていきます。
水道・ガス・電気が使えなくなるというのは言い過ぎですが、利用料金が他の地域より高くなったり、災害時の復旧までに時間がかかったりすることは容易に予想できます。
ゴミの収集箇所が統合され、ゴミ捨てに苦労したり、ゴミ収集の間隔が長くなってしまうということも想定されます。

ババ抜きに戻ります。
捨てられゆく街の住宅も、ババ抜きのババです。
捨てられゆく街で次々と顕在化する社会問題に巻き込まれる生活を強いられます。何より重要なのが、将来住宅をお金に変えなければならなくなった時に、今よりずっと不便になったその街を選ぶ人がどれだけいるのだろうか?ということです。
もちろん生まれ育ったこの街が好きだから、今後もこの街で暮らしていくというのは大切な想いで、否定するものではありません。

ただ、そこまでのリスクを背負った判断であることを自覚せずに、価格が安いからという理由で、現時点でもあまり人気のないエリアを選択してしまう人が後を絶たないため、こういった記事をまとめさせていただいた次第です。

住宅購入は住む街を選ぶことができる、重要な機会です。
その街が抱える問題まで背負い込む覚悟がないのであれば、ぜひ立地にこだわった住まい探しを行っていただければと思います。

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